M1997

佐貫 絢郁|Ayaka Sanuk

Solo exhibition

Saturday, May 11 – Monday, May 20

佐貫絢郁 exhibition

この度、M1997では佐貫絢郁の個展「Ayaka Sanuki solo exhibition」を開催いたします。本展では2022年10月、アーティスト・イン・レジデンス*にて制作した作品を展示予定です。

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的形の絵のこと

初めて的形に来たのは冬だった。その時は絵を描きに来たわけではなく、滞在の下見に訪れた。2回目の滞在は制作をするためで、季節は秋になるくらいだった。

半袖で海や山や住宅が並ぶ通りを台帳を持って歩いていた。その台帳は宿泊しているレジデンス棟の壁に引っ掛けられていたもので、以前のレジデンスアーティストの為にどこからか出してきたものだと聞いた。ページをめくると初めの数枚は香典をどこにいくらやったかとか、家庭の支出が墨で記録されているくらいで、多くは何も書かれていない古い紙の束だった。いつの時代の誰のものか分からなかったけど、それを借りて絵を描くことにした。

的形に来る数ヶ月前に1年過ごしたバンコクや、その前にしばらく住んでいた京都とは違って、浜や山の上や斜面から崖や遠くの島、街並みを眺めていると、水平の線の多さに気づく。背の高い建物が集まる都市部とは違って、海の水平や浜の緩やかなカーブの風景は横の線の要素が目についた。それに、縦を構成する要素に崖などの自然のものがあるのも新鮮だった。この場所を写して描くことに横長の台帳が向いているのも運がよかった。
静かなこの場所で、賑やかだったのはいつも人だった。けど、人を絵にしようとすると周りの風景が大きすぎて、人はいつもチョンとしたただの点として描くしかなかった。大きなマッスが並ぶこの場所がこれらの絵を描かせたということが私には面白い。

佐貫 絢郁

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「タイでのレジデンス前後で絵の構成やそのプロセスは特に変わっていない」

海外での暮らしは、経験値やスキルが増えても、大きく自分の本質が変わるわけではない。 そう考えると、彼女が 1 年間のタイ生活を経験したからと言って、その作風や思想に何かその作 風までを覆す変化がなかったのも納得できる。
的形に初めてきた彼女は、ここには水平の景色が多いと言った。何もない的形では山や海のような自然の要素がとても強く、それらは彼女の目には記号的に映ったらしい。画角に捉われず、 トリミングまでも自由自在に行う彼女の制作を見ると、何を切り取った作品なのかわからない こともあるのだが、彼女の目線に合わせてみると、ふんわりとその景色が浮かんでくる。ラフ なタッチに見える作品は、実はとても観察された上で描かれている。
都市で何かを描こうとすると、生活のスケール感がギュッとしていて情報量が多く、そこには 必ず人間が入り込む。彼女は人間をそこに描くことで街のスケールを図っているが、都市部と 的形ではそれが大きく違ってくる。的形では人は小さくて、風景のボリュームが多い。風景を 描きその同じ筆で人を描くともはやその形で人間とは判断できないような点でしかない。その 風景と人間のスケールの対比から、的形の風景は彼女にとって圧倒的な存在感があった。

タイでのレジデンス中に、大都市化していくバンコクを見ながら、もっと「風景」を切り取りたいと思った。

見る人によって自分の知っている景色と重なり合わせられるような余地のある作品は、素朴な 風景画とは全く異なる、彼女独自の切り取り方である。

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  • Ayaka Sanuki Solo exhibition
  • Date 2024.05.11 ‒ 05.20
  • Hours 11:30 ‒ 16:00
  • Open everyday

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